【前編】大学で学ぶことの価値なんて誰にも分からない。それならまずは、自分の学びを人のために役立てられる環境へ飛び込んでみては?

 

白川郷ヒト大学では、これまでいくつかの大学と連携して、求められる学びに沿ったワークショップや講座の開催、フィールドワークのコーディネートなどを行ってきました。

様々な形で授業やゼミ活動のお手伝いをさせて頂く中で、私たちも新たに学ばせてもらうことや気づかせてもらうことが沢山ありました。

そして今年度からは、新たな挑戦として、これまでのような短期的な滞在プログラムだけではなく、中・長期的な滞在を通して、学生が白川村での学びを深められるような環境を作ろうと取り組んでいます。

そこで、まずは私たちが現在連携している大学(または学部や研究室)が、日頃どういった学びを展開しているのか、どんな先生が、どんな思いで地域や学生に向き合っているのか、ご紹介していくことにしました。

事務局 前盛
それでは早速!

第1回目は、筑波大学大学院  人間総合科学研究科  世界遺産専攻 黒田研究室の、黒田くろだ乃生のぶ教授にお話を伺います。

世界遺産専攻の学生さんと黒田先生

もう20年以上も白川村に関わり続けている黒田先生が、どんな思いで研究に取り組んでいるのか、実践的な学びを大切にしている理由はなんなのか、たっぷり聞かせて頂こうと思います。

白川村での活動や地域での学びに興味がある学生さんには特に、ぜひ最後まで読んで頂ければ嬉しいです。

「誰かのために自分の学びを役立てる」という経験を積もう。学ぶ喜びは、人に必要とされて初めて実感できるものだと思うから。

黒田乃生 – Kuroda Nobu – ( 京都大学 農学部 林学科 卒業後、東京芸術大学 美術研究科 文化財保存学専攻 を修了。東京大学 農学生命科学研究科 森林科学専攻 にて博士号を取得。現在は筑波大学院 世界遺産専攻で教員を務める。専門分野は文化的景観。 )

前盛
まず、黒田先生の研究室がある筑波大学院の世界遺産専攻で学べることを、教えてください。
黒田先生

はい。世界遺産専攻は、大学院ということもあって学生1人1人の興味対象や研究テーマが幅広く、一言でまとめるのはとても難しいんだけど、

「世界遺産」や「文化遺産」といったテーマ以外にも、建築、景観、観光、まちづくり、開発、環境保全、都市設計、美術、芸術など、様々な分野を横断的に学べるのが特色です。

前盛
そうなんですね!専攻名だけを聞くと、世界遺産について深く掘り下げて学ぶような、専門的な学問の印象がありました。
黒田先生

そう思われることが多いんだけど、実際の学びの中身は、とても柔軟なんです。

先生たちの専門性も1人1人全然違っていて個性豊かなので、1つの専攻の中で色んなテーマについて学べる点も魅力だと思います。

学生さんも「世界遺産や文化遺産にものすごく興味がある!」という方ばかりではく、色んな興味を持った方がいて、まだ専門性が見つかっていなくて自分のテーマを探るために入学してきたという方もいるよ。

前盛
なるほど。では、色んな分野を幅広く学ぶことの面白さとは、どんなところなんですか?
黒田先生

例えば、私は景観の面から文化財についての研究をしているんだけど、隣の研究室では「仏教美術」といって中国の仏像を研究している先生がいたり、その隣では「保存科学」といって文化遺産の修復をやっている先生がいたりして、1人1人全然違うのね。

そうすると、もし学生さんが中国の遺産について研究したいと思ったときには、仏像のことは仏教の先生に聞いて、壊れている部分については保存科学の先生から学んで、その仏像がどんな山に彫られていてどんな環境下にあるのかという部分は私がサポートして、という風に、1つのテーマについて色々な角度から掘り下げていける楽しさがあるの。

一見繋がっていないように見える学びが、最後にちゃんと繋がっていく感じが、面白いんじゃないかな。

前盛
なるほど。私は大学院で学んだ経験がないので、想像がしづらいのですが、学部と院の学び方には、どんな違いがありますか?
黒田先生
そんなに大きな変わりはなくて、普通に授業があって、ゼミがあって、という感じなんだけど、1人の研究に対してみんなが協力したりアドバイスし合ったり、熱意の高いチーム体制で学べる環境があるのは、院の良いところかな。

研究室の学生さんたち

前盛
黒田先生の研究室では、どんなことをやっているんですか?
黒田先生

私の研究室では、白川村をはじめ、同じ世界遺産地区である五箇山や、島根県の石見銀山、群馬県の富岡製糸場など、地域での活動が多いです。実際に現地に足を運んで、住民の方との交流を大事にしながら調査や研究をしています。

白川村でのフィールドワークの様子

前盛
白川郷・五箇山も、石見銀山も、富岡製糸場も、とても有名な世界遺産地区ですね。そんな場所で学生のうちから活動ができるというのは、それだけでとても特別なことだと感じます。

具体的にはどんな研究を行なっているんですか?

黒田先生

白川村や五箇山では、主に合掌家屋の保全活用に関する調査をしていて、実際に学生も合掌家屋に滞在させて頂きながら、地域の方のお家に伺って聞き取り調査をしたり、フィールドワークを行ったり、田植えや雪囲い設置などの地域活動に参加させてもらったり、教育委員会さんやヒト大学さんと一緒に地域課題について考えたり、村の文化財に関する文献や資料の整理をお手伝いしたりしています。

地域の方への聞き取り調査

地場産のワインづくりに向けた耕作放棄地の開墾

前盛
世界遺産に指定されている家屋に実際に滞在できたり、地域の方と共に活動ができるというのは、とても魅力的ですね!他のフィールドではどんな活動をしているんですか?
黒田先生

石見銀山と富岡製糸場では、学生が地域の子どもたちに世界遺産について教えるプログラムを行なっています。これがとても面白くて。

世界遺産地区で生まれ育った子どもたちは、自分が住んでいる地域のことや遺産のことはしっかり学んでいるけれど、「そもそも 世界遺産ってなに?」「世界中には他にどんな遺産があって、どういう風に守っているんだろう?」という点については、学ぶ機会が少ないということを知って、この取り組みを始めたんです。

学生さんが地域の子どもたちに授業をしている様子

前盛
確かに!そうかもしれません。白川村の人も、合掌造り家屋についての知識は豊富ですが、世界遺産の登録基準や他地域の取り組みについては学ぶ機会が少ない気がします。私自身も、あまり考えたことがありませんでした。
黒田先生

そうなんですよね。せっかく世界遺産地区に住んでいるのに、世界遺産について考える機会が少ないのはちょっと勿体無いなと感じて。

それで、試しに研究室の学生たちに地域の子どもたちに向けた「世界遺産とは」という授業をしてもらったの。そしたら、子どもたちがものすごく盛り上がったんだよね。

教える学生側もとっても生き生きしてて、紙芝居を作ったりと色々工夫を凝らしてくれて。授業を終えた時には、感動して涙を流している学生もいたの。

そんな姿を見たら、なんだか私までとても胸が熱くなってしまって。

こういう風に、実際に手足を動かして「誰かのために自分の学びを役立てる」という経験をもっと積んでもらいたいなと思ったし、座学での研究だけでは得られない、自分の心に強く心に残るような学びを、体験してほしいなと思ったんです。

前盛
素敵ですね。黒田先生の研究室では、普通に学生生活を送っていては体験できないような出会いや、キャンパスの中にいるだけでは想像できない景色を見せてもらえるところが、魅力だと感じます。

大学院での学びって、もっと研究室や図書館に引きこもって資料とにらめっこしながら進めるようなイメージがあったので。

黒田先生

長く活動を続けていくうちに、先進的な取り組みをしている地元企業さんと一緒に活動させてもらえるようになったり、自分の生まれ育った土地を心から愛して 熱く活動されている方のお話を聞かせてもらえたり、面白い挑戦をしている移住者の方と一緒に活動ができたりするのも、楽しくて。

学生にとっても、講義を聞いたり本を読んだりして一方的に受け取る情報より、こうやって人と人とのリアルな対話を通して聞かせてもらう温度感のある言葉の方が、深い学びに繋がると思っているんです。

前盛

黒田先生の教え子の中には、いま実際に白川村に移住して働いている方もいますね。

ただの研究フィールドとしての関わり方だけでなく、その後も自分の貴重な人生の時間を使って白川村に関わってくれている若者が、先生の研究室から2人も誕生しているというのは、とても大きな出来事だと感じます。

学生の人生が大きく変わるようなきっかけを作ってしまう黒田研究室のパワー、おそるべし!

黒田先生
そんなことはないんです。決断したのは本人たちなので。でも、こうやって縁あった人と地域が繋がっていってくれるのは、とても嬉しいことですね。
前盛
後編では、黒田研究室のテーマである「世界遺産」と「まちづくり」の関係性についてお話を伺っていきます!

後編はこちら!

【後編】世界遺産について学ぶことは、その地域のまちづくりについて考えるところから始まる。

2019年6月8日