人口1600人の村でグローバルに生きる男の挑戦

人口1600人の村で知った情熱の味

 

日本古来の田園風景が広がる白川郷。

1995年に世界文化遺産に登録されたこの地域には、年間約180万人の観光客が押し寄せる。

春には桜、夏は青々とした田んぼ、秋は紅葉、冬は雪の景色など四季折々の景色をカメラに収めるため、何度も白川郷に足を運ぶ観光客も少なくない。

特にどぶろく祭りやライトアップなどのイベントがあるときは、道は人であふれて歩けないほどだという。

今回訪れた9月は観光客が少ない時期であったが、それでも多くの観光客とすれ違った。

両側に所狭しと並ぶ合掌造りの建物を見ながら歩いていると、ひときわ目を引く看板があった。

 

どぶろく風ソフトクリーム

全く結び付きそうにない、二つのものが融合した、この食べ物に興味がわいて、思わず立ち止まってしまった。

今藤商店の外観

 

 

「どこにでもあるソフトクリームではなく、白川郷らしいソフトクリームを作りたかった」

そう語るのは今藤商店代表取締役の今藤建二さんだ。

 店への想いを熱心に語ってくれる今藤さん

 

今藤さんは今藤商店の三代目だ。

当時酒と食料品の店だった今藤商店、長男の今藤さんは村外の高校を卒業後、商売のいろはを学ぶためデパートで二年ほど働いた。

今藤商店は白川郷が世界遺産に登録されたことをきっかけに土産屋に形態を変えたが、デパートで学んだことは現在の接客でも生きているという。

土産屋となった今でも酒屋のルーツは大切にしており、きんつばやまんじゅうにも酒を使用している。

 

その中でも特に力を入れているのがどぶろく風ソフトクリームだ。

今藤商店名物 どぶろく風ソフトクリーム

 

白川郷では五穀豊穰・家内安全・里の平和を山の神様に祈願する「どぶろく祭」が毎年9月の終わりから10月にかけて盛大に行われる。そんな白川郷の文化を取り入れた商品を提供したい、との熱い想いから生まれたのがどぶろく風ソフトクリームである。

 

今では、この店の定番商品となっているどぶろく風ソフトクリームができるまでには、こんなストーリーがあった。

初めは、普通のソフトクリームを販売していた今藤さんは、ある日旅行に出かけた。

そこで食べたお酒入りのソフトクリームは非常に美味しく、白川郷の名物であるどぶろくにちなんだソフトクリームもできるのではないかと考えた。誰にでもおいしく食べてほしいという思いからノンアルコールの商品を作ることにしたが、アルコール度数を下げて酒の風味をだすことは容易ではなく、試行錯誤を繰り返した。

最終的に吟醸の粉をふりかけることによってアルコール度数を下げたまま甘みと深みのある酒の風味を残すことに成功した。今藤さんが情熱をかけて作り上げた世界に一つだけの味は今では日本人のみならず、海外から来る多くのお客さんにも親しまれている。

グローバルなおもてなし

「また来てもらえるような接客をしたい」

そう思って接客をしているという。

白川郷には日本語を話せない外国人観光客も多く訪れ、言葉が通じないこともしばしばある。しかし、今藤さんは動じない。

「聞いた言葉を繰り返しているうちに自然と相手が何を言っているのかわかるようになってきました」

今藤さんは言う。

「サケ ピンチーリン クダサイ」

最初は意味がわからなかったピンチーリンという言葉は、中国語でアイスクリームのことである。

どこで聞きつけたのか台湾人観光客はどぶろく風ソフトクリームを求めて今藤商店を訪れる。

どぶろく風ソフトクリームを求めて今藤商店を訪れる台湾人観光客は多く、何度もその言葉を聞くうちに意味がわかるようになったそうだ。

こんなエピソードもある。

外国人観光客は日本ならではの風景を撮りたがる。

そこで今藤さんはメイン通りではなく、地元の人だからこそ知るのどかな場所を紹介した。

自分だけでは知ることができなかったその写真を撮影できた観光客は喜び、1年後にまた訪れて、他に良い撮影スポットはないかと尋ねたという。

ありきたりな場所を勧めるのではなく、観光客それぞれが何を求めているのかを感じ取り、それを提供するのも大事な仕事だ。

 

立呑み処も併設するこの店には、店員と話したくて来るお客さんや四季によって変わる酒の味を楽しみに来るお客さんもいる。

土産屋に併設する立呑み処

 

立呑み処では地元の酒を呑みながら串焼きやコロッケなどを食べることができる。

 

今藤さんは従業員とのコミュニケーションも大切にしている。

商品開発は皆で話し合いながら行う。

誰かがおいしいものに巡り合った時にはそれをお店に取り入れられないかと考えてみる。年齢や肩書にかかわらず、和気あいあいと話ができる職場は、コミュニケーションを大事にする今藤さんの人柄や日々向上したいと願う姿勢がよく表れている。

 

白川郷から世界中の人へ 終わらない商人の挑戦

世界遺産である白川郷では条例上、新しい店舗を持つことは難しい。だからこそ今藤さんは現在の今藤商店をより良いものにしたいと日々商品開発や新商品の導入に力を注いでいる。しかし、いくら売れる商品を作っても生産が追いつかず、お客さんが欲しいときに欲しいものを買えなければ意味がない。

提供したい商品と提供できる商品の狭間で苦労するなど、常に高みを目指すことは大変だろう。しかし、今藤さんはあきらめない。お客さんに喜んでもらえる商品を開発し、お客さんが喜ぶ接客をする。2号店、3号店をだすのではなく、一つの場所に腰を据えて日々向上していく姿は男らしい。

今年もまた、今藤商店には、世界中から白川郷の四季やお土産を楽しみに来るお客さんが集まるのだろう。

 

 

(有)今藤商店

【問い合わせ】05769-6-1041

【営業時間】9:00-18:00

【定休日】不定休

【所在地】岐阜県大野郡白川村大字荻町226

 

 

この記事を書いた人

児嶋佑香

千葉県出身の大学4年生

一年間休学をしてゲストハウスでヘルパーをしたり農家に滞在したりしていました。食のサイクルが見える暮らしをしたいと考えており、大学卒業後の進路は模索中

将来は自然豊かな場所に移住して農家カフェを開きたい。

※本記事は9月3日~8日に白川村で開催された白川郷ヒト大学の「ローカルワーク編集合宿」で製作されました。