ワンダフルな出会い - 喫茶「落人」

「ここで、毎日すごいドラマが起きる可能性はたくさんありますよ」と喫茶「落人」のオーナーの吉実さんは言った。

 白川郷にある合掌造りの古民家を、囲炉裏のある喫茶店「落人」にしている。

 オーナーは吉実さん、美代子さんご夫婦。

 昭和48年ごろ、吉実さんは解体保存されていた合掌造りを移築して半地下の合掌造りの喫茶店を作った。本当は屋根が地面に繋がる天地根元造りという合掌造りを作りたかったが、防火面を考慮し、地面から少し屋根を切り上げた半地下の合掌造りにした。

 「落人」とは、源平の戦に負けて、白川郷などの僻地に逃げて来た人たちを意味する。「1メートル低くすれば、(お店に入った)みんなも1メートル落ちた人。都会の人たちが仕事とか人間関係で疲れて、隠れ家として休んでくれればいい」よって、この店は隠れ家として「落人」と名付けた。隠れ家なので、あえて入口は分かりにくくして、本通りではなく、裏の田んぼの方。居心地が良くて、ゆっくり休める。

入口がある田んぼの方
メニュー
ぜんざいが置かれた囲炉裏
オーナーの吉実さん

 

お店の装飾品との出会い

 「ホットコーヒーください」と注文したら、「好きなカップを選んでください」と美代子さんは声をかけた。「え!!!」とビックリしたが、店内に所狭しとかけられている素敵な装飾品だと思ったコーヒーカップは、実際に器として使われているとのこと。

 カウンターの左側の壁には、お店に訪れたお客さんが書いたタイ語と中国語の「好きなカップを選んでください」の紙が貼られている。美代子さんが地元の群馬県にあるカフェでアルバイトをしていたとき、お客さんがカップを選べて、喜んでいたので、「落人」も同じやり方にした。また、美代子さんはカップが好きで、よく買い集めていたが、中にはお客さんがプレゼントしてくれたカップも10つほど混じっている。

カップがずらりと並ぶ、お店の内装

 カウンターの右側には、美代子さんが描いた絵ハガキをリピーターのお客さんが印刷して出来上がったオリジナルキャンバスバックがあった。

美代子さんが描いた絵ハガキ

 店内に飾られている写真と絵の多くはお客さんが送ってくれた。他にも、人気の漫画家が店にやって来て、お客さんが自由に書けるようにお店に置いてあるノートに手書きしてくれたキャラクターのイラストもある。漫画家のファンがそのイラストを目当てに店を訪れることもある。取材時に「写してもいいですか?」と吉実さんに聞いたら、「いいよ、皆写した。俺がイラストを席に持っていて、皆と話す」と答えた。さらに、大阪のお客さんから送ってくれた絵「落人 長い人生は川瀬の如く美しい 吉方に流れ豊かに実る」があって、吉実さんの名前の漢字は全て入っている。

大阪のお客さんから送ってくれた絵を説明している吉実さん

 

 

世界中の人との出会い

 言葉が通じるのは、お客さんが一番喜ぶこと。お客さんを喜ばせるため、吉実さん夫婦がやっていることは、「あなたの国でありがとうの言葉はなんですか」と話しかける。「(北京)はシェシェ」「(香港)はドーチェ」などと言葉を教えてもらう。教えてもらって書き留めた言葉は40〜50個にもなる。そうやって教えてもらった言葉を返すと、お客さんが喜んで反応してくれる。美代子さんは発音がしっかりしていて、一度で通じることが多いが、吉実さんが言うと、その国の人にもう一回こういうふうに言うよ、と教えてくれるという二人のエピソードが印象的だった。

今まで書き留めた40、50カ国の「ありがとう」の言葉

 

-縁結びの場

 取材当日も3カ国の若いお客さんと国際交流して、今度台湾に行ったら、案内してもらう約束を取り付けて、メールのやり取りをしたらしい。他にも昭和50-53年当時、店内のお客さんを無理やり囲炉裏の周辺に集めて、縁結びを行っていたそうだ。そこで知り合った男女14組から結婚報告が届いたのだとか。さらには、今白川に住んでいる人たちが7組おり、そのうちの1人が妻の美代子さんだと言う微笑ましいエピソードもある。また、吉実さんが恋人と間違えたことがきっかけで、恋人になったカップルもおり、お店がプロポーズの場所として使われたこともあったそうだ。

 

-癒しの場

 毎日のようにリピーターのお客さんがいて、取材当日も2組来たと話してくれた。また、外国人のお客さんが来て、以前の来店時に実さんと一緒に取った写真を見せられたこともあった。もちろん、吉実さんは覚えていなかったのだが。

 

-言葉の勉強場

 言葉を学ぶため、わざわざこの店に来てアルバイトをしていた人がいたようだ。例えば、白川郷に来た3人の中国人の女の子たちは、日本語を学ぶため、この店でアルバイトしていた。また、白川に来ていた学校の先生の子供が、台湾に留学する予定があり、台湾人と話したかったので、この店に来てアルバイトをしていて、よく台湾人と交流ができたらしい。

 

 このようないろいろな出会いがあって、吉実さん美代子さんは自分の世界を広げられている。この店での様々な出会いの伝説を聞いていると、幸せに満ち溢れる。ここに来ると、ワンダフルな出会いが見つけやすいのかもしれない。

 

美代子さん、吉実さん

 

 

 どんな人を募集したいですか?との質問に「人を好きな人がいいです。特に白川郷で(暮らしを)体験したい人がバイトをしてくれたら助かります」吉実さんは答えた。

 私は取材を終え、白川郷を離れる前、ちょっとお店に寄ってあいさつした。吉実さんが「入っておいで。(自分の)娘にはサービスするよ」と声をかけてくれた。お店に入って、冷やしぜんざいを食べながら、話をしていると、1時間があっという間に過ぎていた。そろそろバスの時間だけど、なかなかここを離れられない。「バスが間に合わなかったら、戻っておいで」美代子さんは語った。この親切さ、温かさ、お店から出たら、涙が出そう。この場所は、まるで我が家。ずっとここにいたい気持ちが強い。また来たい。

 

 

喫茶「落人」

【問い合わせ】090-5458-0418

【営業時間】11:00-17:00

【定休日】不定休

【所在地】岐阜県大野郡白川村荻町792

※バイトを募集しています。気になる方はまずご連絡ください。

 

 

この記事を書いた人

褚秋霞

28歳の中国人。来日6年目。筑波大学人間総合科学研究科芸術専攻博士課程3年生。新しいことに挑戦するのが大好きで、より良い自分になるために頑張っている女子です。

※本記事は9月3日~8日に白川村で開催された白川郷ヒト大学の「ローカルワーク編集合宿」で製作されました。