先日の講演レポートが多くの方に読まれているインターン生”まき”から事務局宛へメッセージが届きました。


ヒト大学は主体的な行動を絶賛、応援してますので、有難く掲載させて頂きます!!それでは滞在先である山本屋への愛情に溢れた彼女の滞在記をご堪能ください。
ヒト大学 山本屋 滞在記 (文責 川端万貴)
私は東京の大学4年生です。「清流の国ぎふ ふるさとワーキングホリデー」で白川村荻町の世界遺産集落にある蕎麦屋「山本屋」で、8月下旬から9月下旬にかけて4週間働きました。
「山本屋」は8代続く合掌造りの家で、春から秋は蕎麦屋、冬は民宿を家族で営んでいます。
私は「日本の伝統文化への理解が深く、相手の思いを汲み取って行動できる外交官になりたい。」という思いから、伝統ある場所で接客をやろうと決め、「山本屋」に辿り着きました。
3代目の店主の山本桂諒さんと、若女将の愛子さんが温かく迎えてくれました。

パンを持っていますが、蕎麦屋です!笑
毎日の仕事は、料理を運んで、片付けて、たまにお客さんとお話しするというシンプルなものでしたが、お客さんの「ごちそうさま」を聞くのが嬉しかったし、何より趣ある場所で、愛に溢れた家族と一緒に仕事をするのが楽しくて、それに、お客さんとの応対が板についてくるのがちょっぴり誇らしくて、幸せな時間を過ごすことができました。
仕事の合間に、桂諒さん、愛子さんと色んな話をしました。
優しくて、何でも受け止めてくれて、これ以上ないくらい居心地がよかったです。話の引き出しが多いご夫婦と一緒にいると、毎日が新鮮で、ふたりの世界観にすっかり惹き込まれました。
最初の頃に聞かされて印象に残ったのは、部屋に飾られていた「地球暦」のお話。
「地球歴」は太陽系の天体図のような見た目で、一年を一枚で表したカレンダー。春分が起点になっていて、太陽系の中での地球の位置や旧暦、月齢が一目で分かります。
「今日という日が何年何月何日って、意味すら考えずに与えられたままに使っているよね。この暦は、人間が自然に帰って、虫と同じリズムで生きるとして、自然に対する感覚を研ぎ澄ませた時に、見えてくる一年のサイクルを表しているよ。」
どうやら山本さんご夫婦は、地球の公転と自転の中で、今日この時を捉えているらしいです。
村の風習も、私にとって新鮮でした。
中でも、10月中旬の「どぶろく祭り」は、一年の節目だそうです。昔から営々と続くお祭りで、豊作を神様に感謝しながら、新米で作った濁り酒を大勢でひたすら飲みます。
1ヶ月以上前から獅子舞や囃子の練習など、着々と準備が始まっていました。当日は、お店や学校は休みになって、大人も子供も衣装を纏ってそれぞれの役回りを果たします。
日本の伝統文化が、村の暮らしのなかに息づいていました。

新しい生き方に触れる度に、心が沸き立ちました。人生観を揺さぶられるような、大好きな感覚です。今までどこか遠くの国に行った時にしか湧き上がってこなかった感覚を、日本で味わえるなんて。
都会で一人暮らしをしていると、家は寝るだけの場所。ひとつの土地に執着せず、荷物は最小限に、軽やかに世界中旅して回る人生がかっこいい!と思っていたけれど、それって根無し草になってしまいそう。
先祖から受け継いだ家に住み、3世代同じ場所で暮らし、昔ながらの風習を守りながら生きる。蒔かれたタネが根付いて木に育っていく人生は素敵だなって思いました。
「住む場所が中心になった人生設計」は、そうした家に生まれないとできないから羨ましく思います。あ、嫁入りするという手がありますね!笑

同時にご夫婦は、村を越えて、全国、そして海外にも繋がりをもっていました。
私が滞在していた間に、イギリスのNGOとの間で、熱帯雨林の廃材で作られた「かんざし」を店頭で販売する話が進んでいました。買うごとに、インドネシアの枯れてしまった森に木が植えられるそうです。
自然を大切に想うご夫婦は、化学的なモノが身体に溜まっていくのを極力避けようとしていました。虫刺されに悩まされていた私は、除虫菊とハッカで手作りした、身体に負荷がかからない蚊取り線香を頂き、愛用していました。
お米は自家製で、他の食材も生産者の顔の見える、身体に優しいモノを、とこだわっていました。調味料のみりんは薄まっていなくて、お米の風味が強く、お酒としても飲めるくらい贅沢な味わい。メニューにある無農薬のリンゴジュースは、誰が飲んでも分かる「本物の味」でした。
身体想いの日用品と食べ物のお陰で1ヶ月の滞在の間に、心なしか血色が良くなりました。日焼けもあるかもしれないです。笑

他にも、普段使いのモノひとつひとつに想いが込められていました。
ほのかに森の香りがするリネンのシャツ
藍で手染めした手ぬぐい
使い込むほど味が出るようにデザインされたエプロン
飛騨の材木で作られた家具
部屋のなかのモノをきっかけに、話がどこまでも膨らんでいきました。
物語のあるモノに囲まれた丁寧な暮らし。手を加えながら長く大切に使うっていいな、と思いました。私自身の消費のあり方を見直すきっかけをもらいました。

ゆったりとした時間が流れる白川村で、
満天の星空を仰いで、自分が宇宙の一部だなって感じ取って、
山に囲まれて、自家製の夏野菜を食べて、去年植えたハーブの収穫を楽しんで、季節の花の香りをかいで、夏から秋にかけて移ろいゆく自然を五感で感じていると、都会で縮こまっていた心がいつの間にかほぐれていました。
最後の日の朝、挨拶しに行って、十割そばを頂きました。
私はわさびが苦手なのを知っていて、少なめにしてくれていました。
「その代わり、愛はたくさん入れておいたよ。」
と言われて、嬉しくて泣きそうになりました。

東京に戻ると現実が押し寄せてきて、夢を見ていたのかなって戸惑いました。
自分には使命があるんだったな、目を覚まさなくては。
「国と国との関係は、結局人と人が織りなすものなんだよ」って先輩外交官に言われたことがあります。一筋縄ではいかない国同士でも、外交官同士の信頼関係が平和の鍵を握る、と。
相手の趣味をわかった上で、真心を込めて相手に接し、自分を通じて日本に好感を持ってくれるひとをもっともっと増やしていきたい。
そのためのヒントを山本屋でつかむことができたな、と思います。
桂諒さんと愛子さんのように、食や文化、工芸に関して、もっと一級品に触れて、舌と心を磨きたい!と思うようになったし、人との繋がりを大切にして、色んな場所に足を運んで、話の引き出しを増やしたいな、って思います。
今度はいつ「帰省」しようかな。
これからもずっと、山本屋の歩みを見守っていきたいです。
愛おしい時間をありがとうございました。
